八正道(はっ-しょうどう)
八正道:涅槃に到達するための八つの実践徳目。正見(しょう-けん)、正思惟(しょう-しゆい)、正語(しょう-ご)、正業(しょう-ごう)、正命(しょう-みょう)、正精進(しょう-しょうじん)、正念(しょう-ねん)、正定(しょう-じょう)。
①正見(しょう-けん):正しい見解をもつ。仏陀の智慧に基づく見解をもつ。
四諦(し-たい:四つの聖なる真理。仏教の説く四種の基本的な真理。※四諦については、
をご覧ください。)の真理などを正しく知る。
身心のいっさいについて無常(むじょう:生滅変化して移り変わり、しばらくも同じ状態に留まらないこと。永遠不変ではないこと。)の事実を知り、自分の心身を厭う思いを起こし、心身の上に起こす喜びや貪(とん:貪り。欲深いこと。)の心を価値のないものとして斥ける。
また、衆生(しゅじょう:生きとし生けるもの)は業(ごう:行い。体で行なう・言葉で言う・心に思うの行為。)だけを自分のものとして所有する、業だけを相続する、業だけを輪廻の起原・原因とする、業だけを親族とする、業だけを依り所とするという正しい見解(業自性正見:業を自己とする正見。※お釈迦様は、バラモン教が説く生まれによるカースト制度〈身分制度〉を、業に基づいた理論で否定した。法句経〈ほっくぎょう〉では、「人は生まれによってバラモン(インドのカースト制度の最上位の階級。バラモン教やヒンドゥー教の司祭階級の総称。)となるのではなく、生まれによって非バラモンとなるのではない。業によってバラモンとなるのであり、業によって非バラモンとなるのである。」また、「氏姓によってバラモンなのでもない。生れによってバラモンなのでもない。真実と理法とをまもる人は、安楽である。かれこそ(真の)バラモンなのである。」と出身階級による差別を明確に否定している。)や、布施(ふせ:施しをすること)の果報(かほう:結果として受ける報い)はある、大規模な献供(けんく:供物を捧げること)にも小規模な献供にも果報はある、善悪の行為に果報がある、父母を敬う行為に良い結果があるなどの正しい見解。
※果報(かほう)については、
https://tennkou.blog.shinobi.jp/Entry/31/
をご覧ください。
②正思惟(しょう-しゆい):正しく考え判断する。
出離(しゅつり)・無瞋(むしん)・アヒンサーの三つを思惟(しゆい:対象を心に浮かべてよく考えること)する。
❥出離(しゅつり):〝俗世間から離れて聖なる生活を送る〟・〝欲望・渇望・五欲(ごよく)から自由になる〟を意味する。
仏門に入ること。迷いを離れて解脱(げだつ:煩悩の束縛から解き放たれて、自由の境地に到達すること。悟ること。)の境地に達すること。
財産・名誉などの俗世間で重要視されるものや五欲など、人間が俗世間において渇望するものの否定。欲を離れる。
♡五欲:(ご-よく)
1、眼(げん:目・視覚)
2、耳(に:耳・聴覚)
3、鼻(び:鼻・嗅覚)
4、舌(ぜつ:舌・味覚)
5、身(しん:身体・触覚)
の五根(ごこん)が、
1、色(しき:色彩・形状)
2、声(しょう:音声・音)
3、香(こう:香り)
4、味(み:味わい)
5、触(そく:感触)
の五境(ごきょう)に対して起こす欲望。
色彩や形状・声や音・香り・味わい・感触の快楽を求めること。
または、
1、睡眠欲(すいみん-よく:眠りたいという気持ちのほかに、少しでも楽をしたいという気持ちも睡眠欲に入る。)
2、飲食欲(おんじき-よく)
3、色欲(しき-よく:感覚的な欲望。衆生が男女の美しさなどにとらわれること。また、男女間の性的な欲情。色情。情欲。)
4、財欲(ざい-よく)
5、名誉欲(めいよ-よく)
❥無瞋(むしん):怒らない。非憎悪。衆生に幸福・安楽を与えたいという心をもつ。
❥アヒンサー:非暴力。不殺生(ふせっしょう:生き物を殺さない)。不傷害。怒りや、自分にとって邪魔な相手を排除したいという攻撃心を無くす。
③正語(しょう-ご):正しい言葉を使う。
嘘・お世辞・無駄話・陰口・仲違いさせる言葉・誹謗中傷・粗暴な言葉を離れる。
④正業(しょう-ごう):正しい行いをする。
殺生(せっしょう:生き物を殺すこと)・盗み・性行為をしない。
⑤正命(しょう-みょう):正当な仕事で生活を営む。
⑥正精進(しょう-しょうじん):正しい努力をする。
四正勤(し-しょうごん)の努力。
❥四正勤(し-しょうごん):四種の正しい努力。悟りを得るための実践修行の一つ。
1、律儀断(りつぎ-だん):未発生の悪(三毒)を生じさせない。
2、断断(だん-だん):已に発生した悪を断じる。
3、随護断(ずいご-だん):未発生の善(三善根)を生じさせる。
4、修断(しゅう-だん):已に生じた善を拡大する
❥三毒(さん-どく):数多くの煩悩(ぼんのう:身心を煩わし、悩まし、苦しめ、けがす精神作用の総称。)の中で、最も基本となる三つの煩悩。苦しみ・諸悪の根源。貪・瞋・癡の三つ。
1、貪(とん):貪り。欲深いこと。五欲(ご-よく)の対象に執着し、必要以上に求める心。
2、瞋(じん):怒り。心にかなわない対象に対する憎悪。
3、癡(ち):無知。無明(むみょう)。仏陀の教え(真理)に暗いこと。仏教の根本思想である三相(さんそう)に対して妄想(もうそう:とらわれの心によって、真実でないものを真実であると誤って考えること。また、その誤った考え。)をいだくこと。
❥三相(さんそう):仏教の根本思想。無常(むじょう)・苦(く)・無我(むが)の三つ。この三相に対して妄想をいだくことによって人は苦しむ。この世の一切は無常(むじょう:生滅変化して移り変わり、しばらくも同じ状態に留まらないこと。永遠不変ではないこと。)であるのに常住(じょう-じゅう:生滅変化せずに永遠に存在し続けること。永遠不変であること。)と見る、または永遠不変を望む、この世は苦に満ちているのに楽(らく:幸福・安楽)と考える、自我は無我であるのに我があると考える、などの妄想を除去することで執着・煩悩はなくなり、苦しみは消える。
をご覧ください。
❥三善根(さん-ぜんごん):種々の善を生じる根本。善い果報(かほう:結果と報い)を生み出す原因である善い行い。無貪・無瞋・無癡の三つ。
1、無貪(むとん):貪らない。執着しない。布施(ふせ:施しをすること)をする。
2、無瞋(むしん):怒らない。非憎悪。衆生に楽(らく:幸福・安楽)を与えたいという心をもつ。
3、無癡(むち):智慧。非妄想(無常・苦・無我の三相に対して妄想をいだかない)。空(くう:無我〈むが〉と同義。この世の全ての存在・事物・現象は、因縁(いんねん:ある結果を生じさせる直接の原因である「因〝いん〟」と、因を助けて結果を生じさせる間接的な原因、結果を生じさせる条件やきっかけである「縁〝えん〟」。)によって生じたものであり、因縁によらずにそれ自体で存在する独立自存の存在ではない。このため、この世の全ての存在・事物・現象は、因や縁の影響を受けて変化し、また、因や縁の影響を受けて滅するので、この世の全ての存在・事物・現象には、永遠不変の自我・本体・実体・本質はない。)の理解。
摩訶般若波羅蜜経(まかはんにゃはらみつ-きょう)では、空(くう)を次のように説明している、「諸法(しょほう:この世に存在する有形・無形の一切のもの。全ての存在・全てのもの・全ての出来事や現象。)は幻と同じだ、陽炎(かげろう)と同じだ、水中の月と同じだ、虚空と同じだ、響と同じだ、乾闥婆城(けんだつば-じょう:乾闥婆が幻術によって空中につくり出してみせた城。蜃気楼〈しんきろう〉。乾闥婆は、帝釈天に仕える音楽を奏でる神。神々の酒「ソーマ」の守護神ともいわれる。)と同じだ、夢と同じだ、影と同じだ、鏡中(きょうちゅう:鏡の中)の像と同じだ、変化(へんげ)と同じだ。」
⑦正念(しょう-ねん):正しい念をもつ。
正しい意識・思いをもつ。邪念を離れて、ありのままの真実の姿や本性を正しく心に留めて忘れない。
⑧正定(しょう-じょう):正しい定(じょう:心を一つの対象に集中して動揺しない状態)を完成させる。
正しい精神統一。心の動揺をはらって安定させる。
以下を参考にしました。
○ウィキペディア 八正道
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%AB%E6%AD%A3%E9%81%93
○新纂浄土宗大辞典 空
https://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/%E7%A9%BA
○ウィキペディア 空
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA_(%E4%BB%8F%E6%95%99)
○ウィキペディア バラモン
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%A2%E3%83%B3